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「Fiatについての話題」で850Spiderのエッセイを投稿していただいた静岡の沼倉さんから手紙をいただきました。124SpiderからPandaに乗り換えてすっかりちびイタ車の世界にどっぷりかと思っていたら・こんな手紙でした。そのままご紹介しましょう。
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稲垣君。ここしばらく便りをしなかったが、元気だろうか。ここ静岡では、先日、毎年開催される輸入車ショーに行ってきたので、その中で印象に残ったことを、いささか書き送ろうと思う。
知っての通り、私は、先頃、愛用の124 Spider と別れ、パンダに乗る身となったのだけれど、長年体になじんだオープンエアの味が忘れられなくてね。折しも、最近の欧州車には、どれも魅力的なスパイダーが多く、その中でも、メルセデスベンツSLKに関してはとても興味津々というわけで、重い腰を上げる気になったというわけだ。
稲垣君にいまさらこんなことをいうのは釈迦に説法かもしれんが、SLK は、メルセデスベンツの設計陣の優秀性を、あらためて世に示すマスターピースとなることは疑いない。
古き良き時代の300SLR から取ったモチーフの、ボンネットの二つのバルジ。軽快で、しかもメルセデスらしさを失わないスタイリング。リア・バルクヘッドにはチタン合金を、さらにルーフ部材にはジュラルミンをふんだんに使い、あの大きな屋根が入るにしては、極めて要領よく納まり、トランクスペースは最低限の犠牲に留まっている。閉めたときには、屋根を力一杯押えても、ミシリとも言わない緻密さを持ち、しかもそれが、1.2t 台の車重と、4m 以下の全長に納っているのだからね。
”沼倉さん、相当気に入ってるな。”と笑う君の顔が見えるようだよ。だがね。これには続きがある。私は、君に、”買うか”と問われたら、条件付で、”ノー”だ。条件というのは、
”あのクルマがヒットして、街中に珍しくないくらい増え、1回か、2回ほどマイナーチェンジをして、飽きられたころには買うかもしれない”ということなんだ。その訳はね、
私は現車を前に、じっくりとエクステリアを見分して、やおら、フロントのホイールアーチの中に手を入れてみたのさ。その瞬間、おや?と思ったのだよ。知ってのとおり、SLK は、Cクラスのシャシーを使う関係上、ホイールベース内側はほぼCクラスそのままで、オーバハング部分のみSLK独自のフレームを持っている。
その継目が、まるで木に竹を継いだようなぞんざいな接合だったのさ。また、インナーフェンダは普通、ホイールアーチに沿った形に整形されたプラスチック部品を使うものだが、それが、あたかも平板を曲げただけのような、なげやりな形状となっていた。また、フロントサスのA アームも、いかにも安く作ったような単純化された形態じゃないか。これは..と思って見直すと、トランクリッドのヒンジなども、薄肉鋼鈑を打抜いて作成された、強度に疑問をもたざるを得ないようなもの。
”これは、私の知っているメルセデスではない”と、思い知らされたね。私が使っている190E と比べれば、その差は歴然だ。190は、一見同じように打抜きの鋼鈑でできたステーでも、強度を出すためにフランジ状に曲げ加工がなされていたり、シャシーの接合部分も、入念な接合部の整形を行った上で溶接されていたりする、あの完璧主義は、もう見られない。考えられる原因はただひとつ。コストさ。
もちろん、メルセデスの設計陣は大変優秀なので、これらの点は知っていてやったことだろう。500万円前後での市販を考えたときに、原価の点で目をつぶったのだろう。メルセデスも、おりこうさんになったって訳だ。ただね、SLK は、恐らく、相応のヒット作となりえるだろうから、量産効果で原価が低減され、あの優秀な設計陣に、コストの制約をゆるめた設計変更の機会がきっと訪れることと思う。
その時には、奴らも、再び気の利いた工作技術を使えるようになると思いたいね。
Mercedez-Benz SLK
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** 沼倉さんのお手紙についてのInagakiの返事 **
お手紙ありがとうございます。沼倉さん、気に入っているでしょう・SLK。
よく言われる通り、SLKに前後して、いや、現行Eクラスの登場からメルセデスの車作りの方向が変わってきたのは間違いないでしょうね。「これは、私(沼倉さんのこと・注)の知っているメルセデスではない」というのを読んで、私は190のデビューの頃を思い出しました。今でこそちょっとクラシックな雰囲気を醸し出しているあのボディですが、今にして思うと登場時には当時最先端だった、「空力ボディ」に対するひとつの解釈であったと思います。
私が「メルセデス・ベンツ」というものを知った1970年代ですけど、そのころのスタイルに比べてどうです?190とか、先代のSクラスは。実際、デビューした頃にはアクが強いスタイルのせいか、非常に抵抗があったのを覚えています。
たぶん、メルセデス・ベンツの開発者たちは190デビューの頃にやったような大きな変化を、昨今また狙っているのではないでしょうか。190の頃に空力、スピードに重きをおくことにしていったのと同様に何か重きをおくことを変えてきているのではないかと思います。それが「何か」というのは正直、いまのところ私は見えていませんけれどね。Aクラスはじめとする新しい発想の小型車なんかもその一つでしょうけど。つまり、メルセデスの作りが安っぽくなったというのは彼らが他の方向を向き始めた(コスト低減によって見るからに頑丈な作りとかですね)からだとおもうのは、肩を持ちすぎですか?確かに、昨今の「変化」はちょっと理解しにくいものだと思いますけど(少なくとも私には)
私の仮説が正しければ、ですけど、沼倉さんの言われる「コストの制約をゆるめた設計変更の機会」は残念ながらないんじゃないかと私は思うんですね。作りが安っぽくなっても、それで浮いた分のコストは彼らがいま考えていることに重点的に使われるのだろうなぁと。ちょっと寂しいような気はしますけどね。
でも、彼らが考えているコンセプトがだんだん我々の理解できるレベルまで熟成されてきてはじめて「作りの変化」をとらえることができるんではないかと思うんですけど。それがはっきり見えてくると改めて尊敬に値することを再確認させられると思いますね。骨のある車をずっと作り続けているメーカですから。メルセデス・ベンツって。それまでにはカスも作るかもしれないけど。
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